北海道で古くから自然とともに生活してきたアイヌ民族。

その言語であるアイヌ語は、日本語はもちろんどの言語とも共通点を持たない「孤立した言語」で、現在での話者は数えるほどしかおらず消滅の危機にあるといわれています。

しかし、アイヌ語の中には現在では日本語として広く日常で使われるようになった言葉も多くあることを知っていましたか?

アイヌ語が語源?!日常会話で使われている日本語になったアイヌ語とは?

孤立した言語・アイヌ語とは?

■アイヌ語は日本語とは異なる孤立した言語

独特な柔らかさとユニークな語感を持ったアイヌ語は、文字がなく口頭でのみ伝えられてきた言葉。

北海道弁のように北海道の方言と勘違いしている方もいますが、道民でも全く理解できないまるで違う言語です。

同じく聞き取りにくく意味が理解できないといわれる琉球語が日本語と同じルーツを持つ日本語の一方言だとされるのに対し、アイヌ語は言語学的にも他の言語と共通の祖語がみつからない孤立した言語(孤立言語)といわれています。

北海道でさえ日常生活でアイヌ語を聞く機会はほとんどありませんが、私たちが日常で使っている日本語の中にはアイヌ語が語源となっている言葉をみつけることができます。

アイヌ語がそのまま和名になった動物たちの名前
■「トナカイ」や「ラッコ」はアイヌ語がそのまま和名になったもの
  • ラッコ [ rakko(ラッコ・ラコ)]
  • トナカイ [ tunakay(トゥナカイ)]
  • シシャモ [ susam(スサム)]

大自然と共存し生きてきたアイヌ。狩猟・漁猟の対象となった動物たちには、アイヌ語がそのまま和名(日本語)になったものがいくつかあります。

その代表的なものが『ラッコ』で、アイヌの人たちは肉は食糧として、毛皮は和人との貴重な交易品として利用していました。

意外かもしれませんが、かつて北海道には野生のラッコが多く棲息していて、襟裳岬に近い広尾町には河口にラッコが棲んでいた川が楽古川(らっこがわ)としてその名に残っています。

また、『トナカイ』も元はアイヌ語で、北海道にはトナカイは今も昔も棲息していませんが、サハリンや千島列島のアイヌからもたらされた言葉といわれています。

■橙赤の口ばしを持つ「エトピリカ」

北海道の太平洋側の一部のみに分布している魚の『シシャモ』は、アイヌ語の「susu(スス=柳)」と「ham(ハム=葉)」からなる「susam(スサム)」が語源で、カムイ(神)が飢えに苦しむアイヌを救おうと柳の葉を川に流すと魚に変わった、という伝説に由来しています。

他にも橙赤の鮮やかな口ばしを持つ鳥の『エトピリカ』はアイヌ語の「etu(口ばし)- pirka(美しい)」が語源となっている他、海鳥の『ケイマフリ』の名も「Kema(足)- hure(赤い)」から由来しています。

アイヌ語が語源で中国から逆輸入された名前も!
■「オットセイ」は「老大なもの」を意味するアイヌ語が語源
  • オットセイ [ onnep(オンネ/オンネップ) ]

アイヌ語が語源となり、少し複雑な経緯をたどって日本語になったのが『オットセイ』です。

オットセイは、元々アイヌ語で「onnep(オンネ」と呼ばれていて、これは「onne(老大な)- p(もの)」という意味で成獣の雄を指す言葉であったといわれています。

「オンネ」は中国語では「膃肭(オツドツ)」と音訳され、その陰茎(臍=セイ)が中国で精力剤として珍重され「膃肭臍」と名付けられました。

それが漢方薬として日本に流入し、そのままこの動物の名前として呼ばれるようになったのがオットセイです。

あの有名な女性誌のタイトルもアイヌ語が語源!
■女性誌「non-no(ノンノ)」は花を意味するアイヌ語
  • non-no(ノンノ)[ nonno ]

現代ではアイヌ語は商品名などにも使われ、知らず知らずに日常で親しんでいるものもあります。

それが、人気女性誌の『non-no(ノンノ)』です。

「nonno(ノンノ)」とはアイヌ語で「花」を意味する言葉で、“花のように美しくあってほしい”という想い、そして親しみやすく語感が良いことから名付けられたもの。

他にも、スナック菓子の『じゃがポックル』はアイヌ語の「korpokkur(コポック)」という「蕗の下の小人」が由来になっています。

「pirka(ピカ=美しい)」というアイヌ語はとても多く使われていて、スナック菓子の『じゃがピリカ』をはじめ、北海道産米の『ゆめぴりか』、北海道上富良野町のブランド豚の『ぴりか豚』などにみることができます。

北海道の地名もほとんどがアイヌ語から由来

■「札幌」の地名の由来になった豊平川と札幌の街並み

日常に溶け込んでいるアイヌ語といえば、何よりも北海道内にある地名がそれにあたります。

例えば、『札幌(さっぽろ)』という地名も元は「sat-poro-pet(サッ・ポロ・ペッ)」という「乾いた・大きい・川」を意味するアイヌ語が由来で、この川は市内の中心部を流れる「豊平川」のことを指しているといわれています。

このように、北海道内にある市町村名ではその約8割がアイヌ語に由来しているといわれています。

※sar-poro-pet(サポロペッ=その葦原が・広大な・川)という説もあります。

なぜ難読が多い?北海道の地名から見えるアイヌ文化