札幌を舞台に未解決事件となっていた誘拐事件の真実に迫るミステリー小説「北緯43度のコールドケース」!
警察小説としてや謎解きミステリーとしての面白さはもちろん、実在する札幌の地名が数多く登場することでノンフィクションさながらのリアリティも魅力の本作。
作中の事件現場や重要なポイントになった場所に地元民が聖地巡礼に行ってみたので、ご紹介したいと思います!
舞台は札幌!ミステリー小説「北緯43度のコールドケース」聖地巡礼!
第67回 江戸川乱歩賞受賞作の長編ミステリー「北緯43度のコールドケース」とは
『北緯43度のコールドケース』という小説を知っていますか?
警察組織の緻密な描写や魅力的な登場人物、謎解きの面白さが審査員に称賛され、2021年に第67回江戸川乱歩賞を受賞したミステリー小説で、著者は北海道在住の伏尾美紀さん。
小説の舞台は、北緯43度線が通過する都市・札幌。
作中に出てくる地名など多くの場所は札幌に実在していて、ノンフィクションさながらのリアリティを感じられるのもこの小説の魅力になっています。
初版が発売になったのは、2021年10月。出版時、平積みで特設コーナーが設置されている書店も多かったので、見かけたことがある方も多いのではないでしょうか?
【あらすじ】
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博士号を持ちながら30歳でノンキャリアの北海道警察の警察官になった沢村。
ある日、札幌市南区南沢で女児の遺体が発見されると、所轄で沢村が所属する中南署の様子は一変した。
師として慕う瀧本がみせる遺体第一発見者への強引な取り調べに、沢村は戸惑う。この死後間もない女児の遺体は、瀧本が担当した5年前の誘拐事件の被害者だったのだ。
誘拐犯は身代金の受け渡しに現れた駅ホームで電車に撥ねられて死亡、被害者も当時の公開捜査の甲斐なく発見されなかったはず…
行方がわからぬまま過ぎた年月で成長した被害者の遺体がなぜ今になって… だが、もし共犯者がいたとすれば…?
次第に明らかになる道警史上に残る未解決事件(=コールドケース)の真実とは…
まるでノンフィクション?!札幌に実在するスポット聖地巡礼!
小説『北緯43度のコールドケース』の舞台となっているのが、タイトルにもある“北緯43度線”が通過する都市・札幌です。
誘拐事件の現場となった「手稲」や被害者の遺体発見現場となった「南沢」、身代金受け渡し場所となった「JR札幌駅」、真実に迫る重要な証言につながる「麻生」や「太平」での聞き込みなど、物語に出てくる地名や場所は、ほとんどが実在しています。
札幌市民にとってはあまりにも馴染み深い地名がたくさん登場するので、まるで現実に起きた事件やノンフィクション作品であるかと錯覚してしまうほど。
ここからは、物語で事件の現場になった場所や、重要なシーンとなった場所に、地元の札幌民が実際に訪れてみましたので、ご紹介したいと思います。
すでに一度小説を読んだ方は、実際の場所の様子を知ると、きっとまた読み返したくなるはずですよ!
注※以降、ネタバレが含まれます。
① 中南署
“札幌市内を通り、洞爺湖方面へ走る国道二三〇号線のうち、札幌市中央区を起点に、南区簾舞と呼ばれる地域までの区間を「石山通」と呼ぶ。(中略)沢村たちが所属する中南署はそんな石山通に面し、裏手には小学校が隣接する場所に位置し、道警では中規模な警察署の一つだった。”
<作中より引用>
未解決事件となっていた誘拐事件の被害者である[陽菜ちゃん]の遺体発見時、[沢村]が警部補への昇進を機に配属となっていた『中南署』は、実在する「札幌方面 南警察署」がモデルになっていると思われます。
作中にもあるとおり、国道230号線(石山通)に面していて裏手には小学校(山鼻南小)があるこの警察署は、中央区の南部と南区全域を管轄としている、いわゆる所轄署のひとつです。
② 創成署と道警本部
“創成署は札幌市大通に位置し、道内に六十六存在する警察署の筆頭署だ。”
<作中より引用>
[瀧本]からの頼みで捜査本部に黙って[詩織]を訪ねた[沢村]が捜査本部を外され、その後に異動先となったのが『創成署』。
これは、実在する「札幌方面 中央警察署」がモデルと思われ、作中にもあるとおり道警でもっとも格の高い筆頭署で、観光地として有名な大通公園近くの市内中心部にあります。
“道警本部は、創成署から西へ徒歩で、七、八分ほどの距離にある。近くには北大の植物園があり、目の前には北海道議会議事堂もあった。”
<作中より引用>
また、『道警本部』は同名で実在していて、『創成署』(中央警察署)からは碁盤の目になっている札幌中心部で西に2ブロック、北に1ブロック離れた場所にあります。
東には「北海道議会議事堂」に面していて、西に1ブロック先には都心のオアシスになっている「北大植物園」もあり、その位置関係も作中の通りです。
③ 南区南沢
“…現場は札幌市南区南沢にある自動車修理工場、『あきやま整備板金工場』の古い倉庫だった。中南署から現場までは、車なら三十分程の距離だ。”
<作中より引用>
[陽菜ちゃん]の遺体発見現場となった自動車工場の『あきやま整備板金工場』やその倉庫がある『札幌市南区南沢』は、藻岩山の裾野の丘陵に広がる住宅街になっている実在する地名です。
モデルとなった工場や倉庫は不明ですが、「南沢」をはじめ「北の沢」「中の沢」などこのあたりには山側へ続く道を進むと自動車の整備工場や中古車販売の会社などが数件あり、作中の古い倉庫を連想させるような建物をみることができます。
④ JR札幌駅 構内
“場所はJR札幌駅の北口だ。(中略)東改札の側に、旅行パンフレットを置いたスタンドがある。そこのフラノラベンダーエクスプレスのパンフレットがある場所の前に、五時半きっかりにバッグをおけ。”
<作中より引用>
[渡瀬]が身代金の受け渡し場所として指定したJR札幌駅構内。
ハラハラするほどスピード感あふれる[渡瀬]の逃走と捜査員たちの追跡劇、そして衝撃的な結末を迎えるこのシーンは多くの読者がドキドキしながら一気に読み進めたのではないでしょうか。
駅構内の撮影に訪れた日には、まさに富良野の観光パンフレット(上写真:紫色の表紙)が置かれていました。
東改札の旅行パンフレットを置いたスタンド、北口側の公衆トイレ、そしてミスタードーナツやレストラン街があり人で混雑する西コンコースまでの逃走ルートは、現実のJR札幌駅構内そのままです。
上階のホームに続くエスカレーターを上がると、衝撃的な結末を迎える手稲・小樽行きの普通列車が到着する三番ホームです。
ここは、通勤や帰宅ラッシュの時間帯には多くの人で溢れるホームとして実在しています。
⑤ 軽川神社と国道5号線
“…JR手稲駅の南口から出て、手稲山方面へ歩いていくと、(中略)軽川神社が座し、そこから山側へ緩やかな坂道を上っていくと、札幌と小樽の間を結ぶ国道五号線に辿りつく。”
“…教えられた駐車場へ行ってみた。三台も停めれば一杯になるほどの小さな駐車場で、いまは赤いコーンで入り口が塞がれている。そのコーンには『軽川神社』と書いてあった。”
<作中より引用>
作中に何度も出てくる『軽川神社』は、おそらくJR手稲駅南口から徒歩2,3分の位置にある「手稲神社」がモデルになっていると思われます。
境内には社務所前に駐車場がありますが、作中にあるほど小さくはなく、赤いコーンも見当たりませんでしたが、ここが[詩織]が車を停めていた場所でしょうか。
[詩織]が[陽菜ちゃん]と[渡瀬]らしき父子を見かけたと証言したのもこの辺りで、神社から坂道を登るとすぐに当たるのが国道5号線です。ここは作中にあるとおり逃走に使えるバスが通っています。
ちなみに”軽川”の名称の由来となったと思われる「軽川」という小川もこの近くを流れています。
他にもまだまだある!小説に登場する実在するスポットは?
小説『北緯43度のコールドケース』に登場する地名などは、上記以外にもそのほとんどが実在しています。以下はその一例です。
- [詩織]と[渡瀬]がつながる重要な証言を得るきっかけとなった保険会社の事務所がある『麻生』
- [詩織]の自宅マンションにいた子供について重要な証言を得たグループホームがある『太平』
- [沢村]がススキノのスナックの帰りに歩いた地下街の『ポールタウン』
- [沢村]の自宅マンションがある『西18丁目駅』
- [渡瀬]がボイスチェンジャーを買った札幌狸小路商店街にある『ドン・キホーテ』
- [沢村]が[小森]に渡した小樽の老舗洋菓子店『あまとう』の『マロンコロン』
『北緯43度のコールドケース』のドラマ化/映画化、文庫化、続編はある?
江戸川乱歩賞の受賞作は、講談社より単行本として刊行されることになっており、本作も2021年10月に初版が発売になっています。
さらに、過去の受賞作は2〜3年後には文庫化もされているので、『北緯43度のコールドケース』も2023年か2024年には文庫化が期待できますね!
これほど面白い小説なので、ドラマ化や映画化も期待したいところですが、江戸川乱歩賞はフジテレビが後援となっていて、受賞作は同局による映像化検討が約束されています。
近年では2010年の第56回江戸川乱歩賞を受賞した「再会」が、2012年に「土曜プレミアム」枠で実際にドラマ化(主演:江口洋介)されています。
また、本作では数多くの同僚や上級警察幹部が登場し、その組織内での派閥争いや[沢村]の警察官としての成長も重要な要素になっていますね。
[沢村]の警察組織での今後のキャリアアップは回収されていない伏線として残っていますので、今後の続編にもぜひ期待したいですね!!