室蘭の絵鞆（えとも）半島の最先端にちょっと変わった形をした校舎の小学校があることをご存じですか。

教室棟と体育館棟の二棟並んでいるその建物の形はなんと円形！　この円形校舎、かつては日本各地にありました。

そしてそのひとつが室蘭の祝津町にある、現在は閉校した室蘭市立絵鞆（えとも）小学校です。実は「ＴＥＡＭ　ＮＡＣＳ」のメンバーでもあり、人気の俳優安田顕さんの母校でもあります。

そもそも円形校舎とは？

円形校舎の歴史とその作り

円形校舎は、その名のとおり円筒形をした校舎のことです。上から見るとドーナツ状で各教室は扇形に仕切られています。天井はドーム型のものも存在しました。

日本では1950年代、子供の増加に伴い全国で次々学校建設が進みました。敷地が狭くても建設できるという経済的な理由や、自然光を取り入れやすく通風も良好などのメリットから、当時日本各地に円形校舎は100棟ほど建てられたのです。

そのほとんどは、円型建築で名をはせていた建築家の坂本鹿名夫氏による設計で、絵鞆小学校もそのひとつなのです。

まるで宇宙ステーション？　絵鞆小学校の校舎

教室棟の真ん中には、ジャングルジムのようならせん階段があります。この階段は昇り専用でした。教室棟の最上階は児童の広場になっていて仕切りがなく360度景色を見渡すことができ、まるで展望台のようです。

体育館棟は体育館が上の階に設置され、教室はその下というこれまた独特の作りです。そして体育館の天井はドームになっており、美しい幾何学模様のような鉄骨のハリが見えます。

各教室は採光がよくとても明るいのですが、教室を一歩出ると廊下はちょっと暗い雰囲気。そんなさまざな特徴が混在する円形校舎は、学校なのになんだか秘密基地にいるような魔法学校にいるような、不思議な感覚を覚えさせます。夜景で映し出された円形の校舎の姿はまるで宇宙ステーションのように美しいと評判にもなりました。

絵鞆小学校の歴史とその周辺

絵鞆小学校の歴史は古く、明治25年に「尋常小学校絵鞆分校」として開校しました。明治32年には独立して「絵鞆尋常小学校」となり、昭和22年に「室蘭市立絵鞆小学校」になりました。

円形校舎は昭和33年に第一棟が、そして昭和35年に第二棟が建てられたのです。歴史ある絵鞆小学校は地域に長く愛されPTA活動も盛んでしたが、平成27年に小学校の統合に伴い、多くの人に惜しまれながらも閉校となりました。

小学校の近辺からは、雄大な白鳥大橋が見えます。また海岸に隣接した道の駅「みたら」や道内最古の水族館「室蘭水族館」もあるなど、海の近くの豊かさを感じさせるにぎやかな地域です。なお、残念ながら絵鞆小学校は現在一般公開などはされていません。

バームクーヘン型の教室で学んだ子供たち

円形校舎の教室の形はバームクーヘンを4つに切り分けたような扇形です。先生と生徒の距離が近く、教壇から教室全体を見渡しやすいので子供の様子がよくわかりました。また後方から自然光がふりそそぐので、天気のいい日はとても明るく気持ちよかったでしょうね。

絵鞆小学校出身の俳優安田顕さんも、そんな教室で学んだ日々や、らせん階段の手すりを滑り降り先生に怒られたことなど、珍しい建物の校舎で学んだ思い出を自著『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』につづっています。

展望台のような宇宙基地のような不思議な建物は、多くの生徒の子供時代の思い出を印象深く彩っているのでしょう。絵鞆小学校に通っていた人たちはみな懐かしく円形の校舎の思い出を語っています。

円形校舎はもうあまり見ることはできない

建設された当時はモダンで経済的と全国に建てられた円形校舎ですが、1960年度から増築にコストがかかることなどを理由に、ほとんど新築されなくなりました。

かつて各地にあった円形校舎は廃校や老朽化が進み、現存するものは大変少なく、室蘭の絵鞆小学校は希少な存在と言えます。

市民による保存活動

平成27年に閉校した絵鞆小学校ですが、その後体育館棟は耐震性の問題などから解体の話が持ち上がりました。けれど市民はこの美しい円形校舎は二棟一対だからこそ価値がある、とクラウドファンディングで体育館棟保存のための資金を募ります。そして立ち上げからなんと一カ月もたたずに目標額を達成するのです。たくさんの方の関心の高さが伺えますね。

そして教室棟は室蘭市教育委員会が、体育館棟は市民の保存団体が管理することになりました。

これからの絵鞆小学校

円形という特殊で珍しい建築物である絵鞆小学校を今後有効に活用するため、市と保存団体は協力しつつ、さまざまな案を練っています。一般からアイディアを募集したり、意見を聞いたりしながらこの貴重な建物を後世に残すべく努力が続けられています。

ノスタルジックな昭和の雰囲気を残し、歴史ある建築物としても貴重な絵鞆小学校の円形校舎。今後、ぜひ多くの人が訪れる場所へと活用されていってほしいですね。

取材協力：室蘭市教育委員会