栗山町の小林家は、北の錦創業者の小林酒造初代小林米三郎の自宅として、1897年(明治30年)に建築されました。国の登録有形文化財にも指定されている由緒ある日本家屋です。

華やかだった酒造りの陰には家を支え続け守り続けた女性たちの存在があり、家屋には北海道の厳しい季節を耐え抜いてきた歴史が刻まれています。

小林酒造の酒造りを陰で支え続けた女性たち

明治に建てられた小林家は蔵を支えた女性たちの歴史そのもの

小林酒造の広大な敷地を奥に進むとひっそりと古い民家が見えます。この歴史を感じさせる日本家屋は2013年までは普通に小林家の暮らしの場でしたが、2014年に一般公開され見学できるようになりました。

栗山町錦3丁目109番地
  1. 営業時間 : 10:00 - 17:00(11〜3月は16時まで)
  2. 住所 : 栗山町錦3丁目109番地
  3. ※コース見学は事前予約が必要
    料金:[中学生以上] 文化財保存協力費としてひとり1,000円(喫茶ホールでのワンドリンク付き)
明治の歴史・商家の暮らしや商いを体感

小林家見学には事前予約が必要です。(1)商家の暮らしコースと(2)商家の商いコースがあり、それぞれ3ヶ月ごとに コースは入れ替わります。また二つのコースを制覇すると、通称秘密の小部屋「コリンゴの部屋」に案内してもらうことが可能になりますので、ぜひ2コースとも制覇してみましょう。今回は(1)商家の暮らしコースを見学しました。

千枚の布が語るもの

小林家内部を案内してくれるのは、祖母や母が守ってきた家を存続させたいと、この家の維持管理を引き継いだ「守り人」の小林千栄子さんです。

玄関をあがるとすぐ右手にたくさんの布が貼り合わされた「千枚の布」が目に入ります。二代目米三郎の妻チノは「豆3つ包める布」は捨ててはいけないと言うほど、酒造が全盛期の華やかな時代にあっても「もったいない」という精神を大切にした女性でした。この「千枚の布」はもともとはチノの着物です。擦り切れたり破れていない部分を切り取り縫い合わせた端切を、チノはたくさん保管していました。昭和に入り酒造が苦しかった時期には、三代目の妻榮子さんがこの布を「百枚の雑巾」にして家をコツコツと掃除したそうです。

その後多くの保管されていた布を千栄子さんが縫い合わせ、「千枚の布」として展示しました。「千枚の布」は小林家の代々の女性たちのさまざまな想いの象徴と言えます。

かつての栄華を垣間見る・豪華絢爛な大広間

ひとつひとつの部屋を当時のエピソードを交えながら丁寧に説明して案内してくれます。写真撮影がOKの「離れの客間」は酒造全盛期の栄華を垣間見ることができる豪華な客間です。かつてはここでたくさんの客をもてなし豪勢な宴が催されました。その裏方として酒宴の席を支えたのは女性たち。料理はすべて手作りでたくさんのお皿洗いは夜中までかかることもあったそう。

お膳にのっているのは可盃(べくはい)。穴が開いていてその穴を指でふさぎ、お酒を飲み干さなければ下に置けない、という座興用の盃です。他にも笛がついていてウグイスの鳴き声が響くウグイスどっくりなど、酒宴の座を盛り上げるための器がたくさんあり当時を偲ばせます。

まるで絵巻物に出てきそうな御簾が時代の名残りをそのまま留め、かつての華やかさを感じさせてくれます。(1)商家の暮らしコースは、他にも商談に使われたという書斎や大きな蔵などが見学コースに入っており、明治の雰囲気を堪能できますよ。

特性の甘酒と手作りの干菓子

見学終了後、炉のある部屋で手作りの干菓子と抹茶と特性の甘酒がふるまわれます。吟醸酒の酒粕から作られた深みのあるおいしい甘酒は、三代目の妻榮子さんが今も現役で作っているそうです。

清めの火打ち

最後は守り人の千栄子さんが邪気祓いの火打ちをしてくれます。昔から酒造の女性たちは酒造りの職人の安全を祈って火打ちをして仕事に送り出していました。目の前に火打ちの火花が美しく散り、過去の時代にタイムスリップした気分になります。歴史ある家の見学の余韻に浸るのにピッタリです。

小林家の守り神・龍神様の祠

小林家の庭には酒造りに大切な水の神様であり商売の神様でもある龍神様の祠があります。小林家建築の際、土を掘ったら白蛇が逃げていき、住処を奪ったことに心を痛めた初代は龍神様の祠に白蛇も一緒に祀ることにしました。以来、白蛇は小林家のシンボルとして大切にされています。

おいしい粕床はおばあちゃんの味

喫茶コーナーには売店もあり甘酒などが販売されています。ブラックペッパーやドライフルーツを混ぜて作られた「食べる粕床」もあり、酒屋のおばあちゃん秘伝の粕床は、まるで濃厚なチーズのような味わいが驚きのおいしさです。粕床がこんなおしゃれなスイーツやおつまみになるなんて、と多くのファンを獲得しています。

■無料で提供されるお水と粕床

語られることのなかった人々の想いを継ぐ

小林家では時代の中で語られることのなかった女性たちの確かな息遣いを何より肌で感じることができます。酒造りにかけて働く男たちの陰でそれを支えつづけた女性たちの確固たる存在と、日の当たることのなかった姿が「家」というものを通して見える気がします。

静かに、けれど凛として美しく生きた女性たちの想いを感じに、ぜひ「小林家」を尋ねてみてください。